夢と現実
昼想夜夢
今日のアイは、とても気分が良いようで、まるで宙に浮いているんじゃないかと思わせるくらいの足取りで、僕の少し前を、ふんふんふんと鼻歌を歌いながら歩いている。
「何か、良いことがあったの?」
僕がそう尋ねると、アイは僕の方へくるりと振り返り、後ろ手に組み、少し横へ傾けたその表情はとても嬉しそうに微笑んでいた。
「ねえ……圭くん」
「私はあなたと出会えて幸せだわ」
アイはそう言うと、後ろ手に組んだまま、僕の横へと来て、その綺麗な顔をすっと近づけた。アイからとても良い匂いがした。人工のものではない、アイ特有の匂い。
「また学校でのお話しをして」
僕らは並んで座ると、僕はアイからのリクエスト通りに、炭酸飲料などの話しを少し大袈裟にはなした。アイは、僕の話しの一つ一つに笑い、驚き、楽しんでくれていた。
「僕はここで、このままずっとアイと一緒にいたいな」
僕がそう呟くと、アイは少し悲しそうな表情を浮かべた。そして、静かに僕の頭を抱きしめてくれた。
「それはできないわ。あなたには帰る場所がちゃんとあるから」
「ずっと同じ場所にはいられないけど、あなたとこうして会えて、お話しできて、短くても、同じ時間、空間を共有できるから」
優しく僕の頭を撫でてくれるアイの、その温もりと優しさが僕の心の中を満たしていくのがわかる。
「ごめん、困らせた」
アイに抱かれたまま、僕がそう言うと、アイの腕に少し力が入った。そして、謝らないでと小さな声で言った。
僕は、登下校中の駅や電車の中、学校、出掛けた先の街中で、アイと似たような背格好をしている女の子を目で追うことが多くなった。
しかし、似ているのは背格好だけで、あの瞳、唇、表情などは全くと言っていいほど違っている。
そんなことは、分かっているけど、もしかしたらという思いが強く出てしまうのだった。
「最近、気になる女の子でもできたのか?」
そんな僕へ榊原が尋ねた。
「似たような女の子ばかり目で追ってるからさ」
僕は夢の中だけで会えるということを伏せ、アイの特徴を話した。
「そりゃ恋だな」
榊原がなぜか難しい顔をして、仰々しく頷いている。そんな榊原の横で、清水が複雑な表情を浮かべている。
「名前は知ってるの?」
「名前はアイ。苗字は知らない」
「歳とかは?」
「何も分からない…」
榊原と清水から、その後もいくつか質問されたが、その質問に答えていると、僕はアイのことをほとんど知らないことに気付いた。
アイは、僕が夢の中でつくっただけの存在なのか、それとも、僕の夢の中へ入って来れる存在なのか。
ただアイのことを追求していくと、アイが僕の前から消えてしまいそうな気がした。
僕は自然に、怪しまれないように、アイの話題から別の話題へと、話しを変えていった。
榊原は男同士の恋バナなんかに、元々、興味が薄かったためか、話題がいつの間に変わっても気にならない様子だった。ただ、清水は、少し気になっていたみたいだけど。
だからと言って、しつこく話しを引き出すようなことはせず、新しい話題に乗ってくれている。
僕らはくだらない話しを、昼休みが終わるまで、飽きることなく続けた。
「何か、良いことがあったの?」
僕がそう尋ねると、アイは僕の方へくるりと振り返り、後ろ手に組み、少し横へ傾けたその表情はとても嬉しそうに微笑んでいた。
「ねえ……圭くん」
「私はあなたと出会えて幸せだわ」
アイはそう言うと、後ろ手に組んだまま、僕の横へと来て、その綺麗な顔をすっと近づけた。アイからとても良い匂いがした。人工のものではない、アイ特有の匂い。
「また学校でのお話しをして」
僕らは並んで座ると、僕はアイからのリクエスト通りに、炭酸飲料などの話しを少し大袈裟にはなした。アイは、僕の話しの一つ一つに笑い、驚き、楽しんでくれていた。
「僕はここで、このままずっとアイと一緒にいたいな」
僕がそう呟くと、アイは少し悲しそうな表情を浮かべた。そして、静かに僕の頭を抱きしめてくれた。
「それはできないわ。あなたには帰る場所がちゃんとあるから」
「ずっと同じ場所にはいられないけど、あなたとこうして会えて、お話しできて、短くても、同じ時間、空間を共有できるから」
優しく僕の頭を撫でてくれるアイの、その温もりと優しさが僕の心の中を満たしていくのがわかる。
「ごめん、困らせた」
アイに抱かれたまま、僕がそう言うと、アイの腕に少し力が入った。そして、謝らないでと小さな声で言った。
僕は、登下校中の駅や電車の中、学校、出掛けた先の街中で、アイと似たような背格好をしている女の子を目で追うことが多くなった。
しかし、似ているのは背格好だけで、あの瞳、唇、表情などは全くと言っていいほど違っている。
そんなことは、分かっているけど、もしかしたらという思いが強く出てしまうのだった。
「最近、気になる女の子でもできたのか?」
そんな僕へ榊原が尋ねた。
「似たような女の子ばかり目で追ってるからさ」
僕は夢の中だけで会えるということを伏せ、アイの特徴を話した。
「そりゃ恋だな」
榊原がなぜか難しい顔をして、仰々しく頷いている。そんな榊原の横で、清水が複雑な表情を浮かべている。
「名前は知ってるの?」
「名前はアイ。苗字は知らない」
「歳とかは?」
「何も分からない…」
榊原と清水から、その後もいくつか質問されたが、その質問に答えていると、僕はアイのことをほとんど知らないことに気付いた。
アイは、僕が夢の中でつくっただけの存在なのか、それとも、僕の夢の中へ入って来れる存在なのか。
ただアイのことを追求していくと、アイが僕の前から消えてしまいそうな気がした。
僕は自然に、怪しまれないように、アイの話題から別の話題へと、話しを変えていった。
榊原は男同士の恋バナなんかに、元々、興味が薄かったためか、話題がいつの間に変わっても気にならない様子だった。ただ、清水は、少し気になっていたみたいだけど。
だからと言って、しつこく話しを引き出すようなことはせず、新しい話題に乗ってくれている。
僕らはくだらない話しを、昼休みが終わるまで、飽きることなく続けた。