秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
「福岡空港までお願いします」
タクシーの運転手にそう告げる秋世さんの声を、どこか遠くに感じながら窓の外に目を向ける。
タクシーの窓にうつる自分の顔は、自分でも驚く程に心許ない。そんな自分の姿を見ていられずすぐに向き直り、そのままきゅっと目を閉じた。
「四宮さん、眠たいですか?」
暗闇の中でかけられたその声に、思わず身体がビリッと凍りつく。
驚く程に瓜二つだ。──高人さんの声に。姿を認識している時とは違い、声を聞くだけではもう、それは高人さんの声にしか聞こえない。
「いえ、そういうわけでは・・・ないです」
「そうですか」
震えそうになるのを必死に堪えて紡いだ私の言葉にどこか無愛想に返されたその声に、思わず泣いてしまいそうになる。