秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

もうどうしていいのかわからない。秋世さんからつきつけられた言葉も、今のこの状況も、まるで夢を見ているかのように現実味にかけていてどこかふわふわとしているようだ。
 
そうであるのに、もし今目を開けてしまったらきっと私は涙を流す。泣いてしまったら、全ての実感が湧いてしまいそうで怖い。それを受けいれてしまえばきっと壊れてしまう。だから目は開けない。


そうやって目を閉じて、どれくらいたったのだろう。きつく目を閉じていたせいで瞼が少し痛くなった頃に、秋世さんに声を掛けられた。

「四宮さん、空港につきましたよ」
「あ・・・はい」

秋世さんが会計をすませ、促されるようにタクシーを降りる。降りると、当たり前だがそこは久しぶりに足を踏み入れた福岡空港の地だった。

心臓のリズムが嫌に速くなっていくのを感じながら、秋世さんの後を歩き福岡空港国内線ターミナルへと向かう。

福岡空港を訪れたのは、これで人生5回目になる。1回目は幼少の頃。2回目は高校の修学旅行、3回目は高人さんと旅行へ行くのを試みた時、4回目は高人さんが東京へ発つのを見送った時。

2回目からは、私は実際に飛行機を利用する事はしなかった。出来なかったのだ。



「四宮さん、どうしました?」




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