秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

拳をきゅっと握りしめて急に歩みを止めた私に、秋世さんがそう言って振り返る。

「い、いえ・・・その・・・」


あまりに非現実的な事の繰り返しで重要な事をすっかり忘れてしまっていた。
・・・私は、幼少期に飛行機事故に遭った事が原因で飛行機に乗れない。高校の修学旅行もそれで断念したし、高人さんとなら大丈夫だろうと1年前に挑戦してみた事があったが、それでもどうしても飛行機に乗る事は出来なかった。

私から両親を奪った飛行機という乗り物は、幼い頃からずっと恐怖の対象なのだ。

・・・でも、言える筈がないそんな事。


「大丈夫です、何でもありません」



情けなく震えてしまいそうになる声を、手の甲に爪を立てて必死に堪えた。







大丈夫だと、何でもないと答えたのは私だ。


──お願い高人さん。ごめんなさい、ごめんなさい、やっぱり怖くて乗れない。

そう言って、搭乗ぎりぎりになってやっぱり無理だと高人さんに泣いて謝ったのはいつだったか。・・・今でもその気持ちは変らない。怖くて怖くてたまらなくて、壊れてしまいそうな程に心臓が不規則な早鐘を打つ。

でも、今はあの頃のように”やっぱり飛行機には怖くて乗れません”なんて甘えた事を言って泣ける状況ではない。
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