秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
「・・・やめません。乗ります」
「そうですか、じゃあ頑張って下さい」
そう言った秋世さんは、唇の端を少し上げて小さく笑ったように見えた。私がそう答える事を分かっていたのだろう。
でも、そう答えた以上後に引く事は出来なかった。今にも崩れ落ちてしまいそうな程の恐怖を呑み込みながら搭乗ゲートをくぐる。
サァっと顔から血の気を引かせ青ざめる私に、秋世さんがすっと腕を伸ばした。
普段なら、今日知り合ったばかりの男性の腕をかりるだなんて事は有り得ない。だがそんな判断を出来る程の冷静さはとっくに失っていた。
差し出された左腕にすがるようにしがみつき、そのまま目線の靴のつま先に向けるように俯きながら歩みを進める。
「そんなに怖いなら、目を瞑っていても大丈夫ですよ」
「・・・それは、むしろ怖いので大丈夫です」
「そうですか?遠慮しなくて良いですよ。何なら運びましょうか」
"運ぶ”と言われて真っ先に思い出されたのは、薬局でいきなり抱きかかえられた時の出来事だ。
「ま、また運ぼうとしないで下さい」
本気にしてそう返すと、秋世さんは冗談だと言わんばかりに意地悪く笑った。