秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

そうやって秋世さんの腕にしがみつきながらやっと搭乗を済ませ、案内されたのは通常のエコノミークラスでは無かった。飛行機は幼少の頃に一度利用したきりではあったが、それでも案内された席のレベルが普通でない事くらいは分かる。

「え、あの、席ってここですか?」
「そうですよ。乗り心地も良いですし、エコノミーに比べたら恐怖感がいくらかマシになると思いますよ」
「・・・・・・。」

確かに、記憶の中に残る飛行機の席とはまるで違っているし、そういう意味では秋世さんの言葉通りかもしれない。・・・けれど。

(秋世さんは高人さんと3つ歳の離れた弟。その若さでこの席をとっていて、しかもこの慣れようって一体)

──秋世さんは一体何者なんですか。

喉元まででかかったそんな言葉を呑み込み席に座ろうとした時、自分がまだ秋世さんの腕に自分の腕を絡めている事に気がつき危うく声を上げかけた。

「ごめんなさい・・・!」

「いえ、もう俺の腕はいりませんか?」

そうからかうように返されて、羞恥心で思わず顔に血が上る。恐怖感は盲目だ。
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