秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
突然の訃報
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「飛翠(ひすい)ちゃん、今日はもう上がっていいわよ」
「へ…?」
──pm7:00.
店長にそう声をかけられ、私は薬箱の陳列整理していた手をとめて顔を上げた。
もう色素は薄くなっているが、それでもふんわりと量のある髪はいつも綺麗に束ねられており、その柔らかく澄んだ声はとても高齢の女性のものとは思えない。
──商店街の隅にある、小さな個人経営の薬局。
フリーランスのイラストレーターとしての仕事を必死に囓るだけではとても食べていけない経済状況下にいる私は、この薬局でアルバイトをする事によって生計をたてていた。
そしてこの薬局の営業時間は8時までの筈で、私の勤務時間も同様に1時間残っている。
店長の言葉を不思議に思い思わずポカンとすると、店長は目尻を下げた優しい笑顔で続けた。