秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。


「・・・・・そうですね。もう夜も遅いですし、急ぎましょうか。もう車は呼んであります」
「はい」

もう車は呼んである。その言葉通り、飛行機を降り空港から出て少し歩くと黒塗りの車が停車していた。

(車は呼んであるって、タクシーの事じゃなかったんだ・・・)

飛行機のシートのレベルも、この車も、秋世さんの経済力に今更ながら圧倒される。経営者の一家だからと言われれば納得は出来るが、高人さんは実家の会社の規模は小さいと言っていた。何より高人さんの生活水準は一般的だったように思う。

そう内心で首を傾げていると、車の運転席の窓が開き、中に座っていた男性が微笑みながら会釈してくれた。私が会釈を返すと同時に男性が車から降り、後部座席のドアを開けてくれた。

「君が飛翠ちゃんか、どうぞ乗って。秋世も後ろでいい?」
「あぁ」
「ありがとうございます」

緊張しながら、促されるまま車の中に乗り込む。タクシー以外の自動車に乗るのは本当に久しぶりだ。

少しだけそわそわとしている間に車が走りだす。
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