秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

「車出発させちゃったけど飛翠ちゃん気分は大丈夫?飛行機酔いしてるとかだったらまだどこか近くに車停めてようか?」

運転席からそう尋ねられ、私は大丈夫ですと言って首を横に振った。飛行機に乗っていた時は身体も心も辛かったが、降りてからは身体に疲れを感じているだけで気分は悪くない。

「良かった、じゃあこのまま行くね。あ、遅くなったけど俺は秋世の秘書の三波悠って言います。よろしくね飛翠ちゃん」

(飛翠ちゃん・・・)

25をすぎてから自分に向けてほとんど使われる事のなくなった敬称に少しだけ戸惑いながらも、三波さんの優しくてどこか柔らかい話し方に緊張していた心を解かれる。

「こちらこそ、よろしくお願いします。秋世さんの秘書さんだったんですね。えっと・・・ちなみに、秋世さんはどんなお仕事をされてらっしゃるんですか?」

ずっと気になっていた事を尋ねると、三波さんが驚いたようにえっと声を上げた。

「え、飛翠ちゃん、高人から何も聞いて無かったの?」
「えっと・・・高人さんからは、お仕事の事も会社の事もあまり教えて貰っていないんです」

私が教えて欲しいと本気で頼んでいれば、きっと教えてくれたのだろうなとは思う。ただ、極端に仕事や会社の話を避ける高人さんから無理に話を聞く事はしなかった。
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