秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
「兄さんは、雪谷食品の副社長であり次期社長だったんですよ」
高人さんが、雪谷食品の次期社長。
まるで何てことのないような声色で告げられた事実に、私は目を見開いた。
雪谷食品は、有名な日本の大手食品会社だ。食品、飲料、調味料の総合メーカーで、特にインスタント関係の食品に特化している印象がある。どれだけビジネスに疎かったとしても、名前を知らない人はいない程に大きな会社。
(でもまさか、そんな・・・)
「・・・本当に?あ、もしかして、私が知ってる雪谷食品の他にも同じ名前の会社があるんでしょうか」
「四宮さんがご存知の会社で間違いないと思いますよ。本当です」
「そんな、だったら高人さんは、何で・・・」
──会社って言っても、家族で経営してるような小さな会社だから。
秋世さんの言っている事が事実なら、鮮明に覚えている高人さんのその言葉は嘘だ。私は高人さんに会社の事を教えて貰えなかっただけではなくて、嘘をつかれていた事になる。
「まだ信じられないですか?」
「・・・高人さんから直接聞くまでは、信じたくありません」
信じたくない。高人さんが私に嘘をついていたなんて事、認めたくない。そう思うのに、秋世さんが私に嘘をつく理由も見当たらなくて。
吐き気がしそうな程の歯がゆさに、ずっと唇をきつく噛んで耐えるしかなかった。