秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
「高人さん、どこ!?」
思わず泣きそうになりながら名前を呼ぶ。
あぁ似ているあの時に。どれだけ家中を探しても、名前を呼んでみても、酷く泣いてみせても、お父さんとお母さんはどこにもいなかった。二度と会いにきてはくれなかった。
───・・・さん
───四宮さん
(ん・・・?)
ぼんやりとする意識の中、自分の名前を呼ぶ声に呼び起こされる。
薄い目を開けて見えるのは、見なれない木目造りの天井だ。
「おはようございます。大丈夫ですか、酷くうなされてましたけど」
今度ははっきりと聞こえた秋世さんの声にはっとして飛び起きた。知らない部屋、知らないベッド──・・・そうだ、ここは高人さんと秋世さんの実家で・・・
「・・・・・・・・・・。」
一瞬にして全ての記憶がはっきりとし、一度起こした筈の頭はそのまま膝にガクンと落ちる。
夢じゃない、夢じゃなかった。高人さんはもう本当に何処にもいなくなってしまった。もう会えない。もう声を聞けないもう触れられないもう抱きしめて貰えないもう話をする事もできない。
神様はいつも私から大切なものを奪っていく。
みなしごだった私がようやく見つけた幸せだった。
高人さん以外、何も要らなかったのに。他に何を失っても、高人さんさえ居てくれればそれで充分すぎるくらい幸せだったのに。