秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

「どうして・・・どうしてですか」

言葉足らずに嗚咽をこらえながらそう尋ねると、秋世さんが一拍置いて答えた。

「運転していた車が電柱に衝突した交通事故です。ブレーキ痕がなかったので、原因は多分運転中の居眠りだろうと」
「………。」

──電柱に衝突。居眠り運転。

あまりに高人さんらしくない事故の内容に違和感を覚えた。高人さんは何をするにも注意深く行動する人だった。疲れている時はそもそも運転しないようにしていると言っていたし、長い距離を運転する時に頭がぼうっとしないようにと刺激の強いドリンクやガムを口にしている高人さんを助手席から何度も見た事がある。

そんな余裕もなくなってしまう程に疲労で身体が疲れていたという事だろうか・・・。

「居眠り運転をさせてしまう程に兄さんに負担をかけていたのは会社です。申し訳ありません」
「・・・・・・。」

そう言って頭を下げる秋世さんに、何と言葉を返せばよいのか分からない。

きっと秋世さんが謝る事じゃない。・・・それに、きっと誰にどれだけ謝られても頭を下げられても、高人さんは返ってこない。

もう会えない。



それなのに私は──・・・お葬式にも出てあげられなかった。

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