秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
「謝らないで下さい。・・・むしろ、私を見つけて伝えにきて下さってありがとうございました。そうじゃなかったら私、いつまでも分からないままだったかも知れません。私の事は、高人さんから聞いていたんですか・・・?」
「いいえ、兄さんとプライベートな話をする事は殆ど無かったので。兄さんの部屋を整理している時に見つけた日記を見て、兄さんに結婚を約束した女性がいた事を知ったんです」
「日記・・・?」
高人さんが日記をつけていた事は知らなかった。
「兄さんの死を知らないであろう婚約者があまりにも不憫だったので、直接会って話をしようと思ったんですよ」
そういって秋世さんが目尻を下げて柔らかく微笑む。やはり兄弟という事だけあって、その笑顔は一瞬高人さんに見紛う程によく似ていた。
反対に秋世さんのクールでどこか冷ややかに感じるような雰囲気や話し方は高人さんとは似ていない。でもそれは表面の印象で、秋世さんもきっと高人さんと同じで優しくて暖かな人なのだろう。
私に直接会って高人さんの事を伝えてくれて、飛行機でパニックになった私を落ち着かせてくれた。秋世さんだって、お兄さんである高人さんを亡くして辛いのは私と同じ筈なのに。
ありがとうございます。
まだきちんと伝えられていなかった感謝の言葉をきちんと口にしようとしたその時だった。
「──なんて、そんなのは建前の話です」