秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
一瞬自分の耳を疑った。
(…秋世さん、今なんて)
先ほどまで穏やかな微笑みを浮かべていた筈の秋世さんは、ゾクッとするほど感情の読めないような表情をして私を見ている。
「会社を継ぐ筈だった兄が亡くなって、俺も猫の手も借りたいくらい忙しいんですよ。そんな時にわざわざ、同情だけで四宮さんを自分の足で福岡まで迎えに行ったりしませんよ」
秋世さんの言う事は最もだ。
ただ、急に温度の下がったような秋世さんの瞳にこの上ない恐怖感を覚える。
「・・・私が、猫の手って事ですか・・・?」
震える声でそう尋ねると、秋世さんは一瞬少し目を見張った後にクスクスと笑った。
「猫の手、とは違います。単なる労働力が欲しい訳じゃありません。会社の為に、貴方の才能と話題性が欲しい」
「私の才能と話題性・・・?」
意味が分からず秋世さんの言葉を繰り返した私に、秋世さんがポケットから取り出した二枚のポストカードを差し出してみせた。
ラーメンが描かれたカードと、コーンスープが描かれたカード。どちらも前に高人さんにリクエストされたものを私が描いて高人さんに渡したものだった。
「遺品を整理している時に、引き出しの中に大切そうにしまってあったのを見つけました。これを描いたのは四宮さんですよね?」
そんな秋世さんの言葉にコクンと頷く。
そしてハッとした。今まで高人さんにリクエストを受けてきたインスタント食品はきっと全部、雪谷食品のものだったのではないか。
「兄さんは、貴方の描く絵を雪谷食品の商品のパッケージに起用したかったんです」
そんな秋世さんの言葉に驚きを隠せなかったが、それでも今までの高人さんの行動を振り返れば辻褄が合う気がした。