秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
「俺はそんな兄さんの意思を受け継ごうと考えています。そして最終的には、雪谷食品の商品パッケージを全てイラスト化したい」
「部分的にじゃなくて、全部ですか?」
「はい。そして、そのイラストの全てを四宮さんにお願いしたいんです」
秋世さんの言葉に思わずポカンとし、言葉の意味を理解した時に目を見張った。
雪谷食品の商品パッケージを全てイラスト化させるという方針も画期的で驚いたが、そのイラストを全て私が描くなんてそんな事とても。
「・・・・・・嫌です」
そんな私の返事は想定内だったのだろう。秋世さんが顔色一つ変えないままに続ける。
「どうしてですか?愛する人の望みだったんですよ。それを叶えてあげられるのは四宮さんだけです」
「高人さんはもういないのに?高人さんに見て貰えないなら、褒めて貰えないなら、喜んで貰えないなら、私にとって絵を描く意味なんてないんです」
子どもの頃はただ純粋に絵を描く事が好きで、絵を楽しんで描いていた。
でも仕事として絵を描くようになってからは、いつしか子どもの頃のように絵を描く事を楽しめなくなっていった。好きでたまらなかった筈の絵に苦しめられるようになった事もあった。そんな時に出会ったのが高人さんだったのだ。
絵描き界隈でない人から自分の絵を褒められる事は酷く久しぶりで、そうでなくても率直な言葉で伝えられる高人さんの感想はとても心地良いものだった。
一度失ってしまった絵を描く理由を、高人さんが新しく私にくれたのだ。