秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
・・・だから、だからもう、今は全てを休みたい。
それに、私以外に適役は五万といる筈だ。何も無名なイラストレーターである私を起用する必要性はない筈。それなのに秋世さんが全てのイラストを私に任せたいと言うのは何故か。
───会社の為に、貴方の才能と話題性が欲しい
ふと、そんな秋世さんの言葉を思い返してハッとする。
(話題性・・・)
「他の人ではなく、四宮さんを起用したい。そして、兄さんの死の公表と雪谷食品の商品パッケージイラスト化計画にあたってメディアでの取材に応じて貰いたいんです。全てのイラストを手がけるイラストレーターは今は亡き雪谷食品の副社長、雪谷高人の婚約者。・・・中々話題を呼ぶと思いませんか?」
一瞬まさかと頭をよぎった事をストレートに言葉にされ、思わずきゅっと両手を握りしめた。
私は秋世さんに実力を見込まれた訳でも何でもないのだ。
「・・・その仕事、断りたいって言ったらどうなりますか」
そう尋ねると、秋世さんは顎に長い指をかけて考えるように少し黙り込んだ後、とんでもない事を口にした。
「四宮さんのアルバイト先の薬局、経営出来なくなるように手を出しますよ」
そんな秋世さんの言葉に、ゾッとして生唾を飲む。冗談の声色ではない。
──…本気だ、この人。
きっと秋世さんの手にかかれば、ただでさえ客足の遠のいている小さな個人経営の薬局にトドメを刺すことなど難しい事ではないのだ。
「どうしますか?」
高人さんを失った今、私は絵を描く事以前に生きる意味すらも見いだす事が出来ない。
そんな状態の私に、雪谷食品の大きなプロジェクトなんて背負える訳ない。高人さんが褒めてくれたような絵を描ける自信がない。
でも、ここで首を振れば薬局が潰される。お世話になった店長を困らせる事なんてそんな事、出来る筈ない。