秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
東京での住まい
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「結構良い部屋でしょ?家賃は全部秋世負担だから、存分に都内新築マンション1DK暮らし楽しんでね」
そう言ってニコっと微笑む三波さんに、戸惑いながらもありがとうございますと言って返す。
──あと東京での住まいは用意してありますから心配しないで下さいね。
秋世さんの言葉通り本当に私の部屋はあらかじめ用意してあったらしく、あの後すぐにやってきた三波さんにこうしてマンションの部屋を案内して貰っている。
福岡の自宅と比べて生活水準が跳ね上がる位に立派な部屋。それも東京都内の物件だから、福岡とじゃそもそもの家賃の相場が全然違う。
「三波さん、やっぱり私こんな立派な所になんて住めません」
「大丈夫だって、ほら、福利厚生だと思って遠慮せずに」
福利厚生だと言われても、私は雪谷食品の社員じゃない。
それ以前に、そもそも自分の知らない所で、何の承諾もしていないのに勝手に自分の住まいが用意されているなんておかしい。絶対おかしい。
「ちなみにこの物件選んだのは秋世だよ。その、多少というかかなり強引だった秋世を止められなかったのは申し訳ないんだけど・・・秋世がそれだけ飛翠ちゃんの事を見込んでるって事だと思うよ」
「・・・・・・。」
三波さんの悪気ない言葉がまるで針のように耳に痛い。
秋世さんは私の実力や才能を見込んでいる訳じゃない。秋世さんにとっての私の価値は話題性だ。その為ならこんなにお金をかけても私が嫌がっても、私をここに縛り付けて仕事に利用する気なのだ。
──もう、事の展開に頭が追いつかない。
高人さんが亡くなって、その高人さんは雪谷食品の社長になる人で・・・
まるで悪夢の中にいるように、恐ろしくてたまらないのに変な浮遊感があって現実味が無い。