秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
…ずっと、ずっと、ずっと。
待ち焦がれた人の来訪に、思わず身体が心を出し抜いて駆けだしてしまいそうになるのが分かった。
(まさかそんな、有り得ない)
「高人さん……」
そう零れたように名前を口にする。
口にしてから、有り得ないと直感した心の声は間違ってはいなかったのだと気づきハッとする。一歩ずつ距離を詰めるように自分の方へ歩いてくるその人は、高人さんではない。一瞬にして熱くなった筈の心臓が、また一瞬にして凍り付くように冷めていく。
見上げる程の身長も、形の良い涼しげな目元も唇も、綺麗に通った鼻筋も、大好きで大好きで会いたくてたまらない人に怖い程に似ている。
(似ているけれど違う。…高人さんじゃない)
歩みを進めた彼はやがて私の目の前に立ち、その姿を見てやはり別人なのだと内心で唇を噛んだ。
…そして、今自分の目の前に立つこの人はきっと、ここへ薬を買いに来たのではない。
店に入ってからすぐ、店内の商品を一瞥する事なくまっすぐに自分の方へ足を進めてきたのだ。
でも私はこの人の事を知らない。分かるのは、こんなに高人さんに容姿の似た人間が、高人さんの他人の筈がないという事だけ。