秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

「・・・はい、えっと・・・ごめんなさい、絵はまだ描けていないです」

平静を装ってそう応える。

『そうですか。それじゃあ描き終えたら教えて下さい』
「はい」

てっきり仕事の催促が本題だと思ったのに、意外にあっさりとした秋世さんの対応に少し戸惑いながら返事をする。

『ところで四宮さん、今日食事は摂られました?』
「えっ」

突然の想定外の質問に、思わずすっとんきょんな声が漏れた。

「えっと、何も食べてません」

驚いた反動で思わず本当の事を言ってしまい、しまったと臍を噛む。

『食べてないって、朝から何にもですか?』
「・・・はい」

どうしてか分からないが、秋世さんの話し方には嘘をつくのを戸惑うような変な圧がある気がする。

『財布は持ってましたよね?食欲が無くても何か食べないと駄目ですよ。』
「そ、そうですよね」
『・・・まぁいいです。今からそっちに行くので、出かける準備をして置いて下さい』
「はい。・・・って、え?」

(出かけるって、私と秋世さんが?)

『ちなみに部屋のクローゼットにいくつか服がかかってる筈なので、着替えたかったら使って下さい。他も生活に必要なものは一式揃えてあるので、自由に使って下さいね。全て四宮さんのものですから』

「・・・・・・・・・。」

そんなホテルのアメニティみたいな事ってあるのか。

戸惑いながらもありがとうございますとお礼を言おうとした時には、すでに秋世さんとの通話は切れていて更に戸惑った。


「・・・・強引」
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