秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
「・・・・・・。」
ふと視線を流した窓の外は眩しいくらいに賑やかだ。福岡もかなりの大都会だと思っていたが、やはり東京の街は別格だと感じる。
(・・・人が多い)
一人でいる人や友達と並んで歩いている人、学生や仕事終わりのサラリーマン。こうして見ると街には本当に沢山の人が溢れてる事に気がつく。
普段なら別段何も気にとめる事は無いのに、今は街を歩く幸せそうな恋人や家族を見ると胸が痛い。人が羨ましくて胸を痛める日が来るなんて、幸せそうな恋人を見て苦しくなる日が来るなんて思ってもみなかった。
奥からこみ上げてくるものを耐えられず、俯きながらぱたぱたと涙を流す。
──どうして。
私は何も悪い事なんかしていないのに。どうして昔から、私の大切な人はみんな死んじゃうの。こんなにも沢山の人がいる世界の中で、それがどうして私なの。
羨ましい。街行く恋人達が羨ましい。普通の人が羨ましい。世の中の殆どの人は、親も恋人も事故で亡くすような事はない。
「・・・・・・秋世さん、やっぱり私、何も食べたくないです」
嗚咽を堪えて蚊の鳴くような声で訴えた言葉は秋世さんに届いたらしい。
「わかりました」
「・・・え?」
あっさりと了承され、思わず拍子抜けた声が漏れる。食欲がなくてもきちんと食べなきゃいけないとあれほど言っていたのに。
戸惑う私を乗せる車は方向を変えて走り出す。一瞬またあのマンションへの帰路をたどっているのかと思ったがそうではなく。
しばらくして辿り着いた先は、都内の大きなショッピングモールだった。
「四宮さん、買い物しましょうか」