秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
そう言って連れてこられたのはショッピングモールのホームセンターフロアだった。
「必要な生活雑貨揃えましょう」
「あ・・・はい」
(食事の次は、唐突にホームセンター・・・)
戸惑いながらもコクンと頷いて少し先を歩く秋世さんの後ろについて行く。
こうして一歩引いて歩いていると、店内のお客さん達の視線がちらほらと秋世さんに注がれているのが分かる。綺麗な容姿をしている人は目立つし、人の視線を集めるのだろう。
この感覚は少し懐かしい。高人さんと一緒に歩いている時も感じた事があった。
それでもその感覚が段々薄れていったのは、周りの事が目に入らないくらい高人さんの事しか見えていなかったからなのだろう。
そんな事に気がついて胸が痛む。
高人さんとよく似た秋世さんを見ているのは辛い。嫌でも秋世さんの姿越しに高人さんの事ばかり考えてしまう。
(・・・・・・。)
「四宮さん、少し座りますか?」
「・・・え?」
言われて、自分の右手が小刻みに震えて居る事に気がついた。慌てて震える右手を左手で包み込むように押さえるが治らない。
どうしようと焦って秋世さんを見上げると、肩を抱かれて近くの長椅子まで誘導された。
両手をきつく握りしめながら椅子に腰を降ろすと同時に何故か両目から涙が零れ、まるで身体が1人歩きしているような無意識の反応におののく。
「恋人を亡くした人が泣くのも、心身が不安定になるのも普通の事ですよ」
身体が異変を起こした事に戸惑う私に、秋世さんのその言葉は優しかった。
・・・本当に調子が狂う。この間はあんなに恐ろしい事を言って私を脅した人なのに。
苦手な筈の秋世さんから優しさを感じている自分も変だ。
「秋世さんは私の事、良い商売道具だから優しくしてくれるんですよね?」
「そうですけど。そんな理由じゃ不満ですか?」
そんな秋世さんの質問に強く首を振って答える。
違う。そうじゃない。そうじゃなくて寧ろ、その温度のない嘘の優しさが心地良いのかもしれない。
秋世さんは私の事を仕事の為に利用する。私を東京に縛りつけて、あの部屋に縛りつけて利用する。
──・・・だったら。
だったら、私だって。