秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
───。
「・・・・・・っ」
「四宮さん?」
秋世さんに顔を覗き込まれてハッとする。
(私、今秋世さんに何をお願いしようとした・・・?)
「どうしたんですか。四宮さん、何か言いたげでしたよね」
その声が。顔が。高人さんと聞き違うような見紛うようなそれらが私をおかしくさせる。
その声で”四宮さん”と呼ばれる事に傷つく自分がいる。
私が名前で呼んで欲しいと思う相手は秋世さんじゃなくて高人さんなのに。
やっぱり私はおかしくなってしまったんだろうか。秋世さんの事が怖くて苦手でたまらない筈なのに、どうかしている。
「ごめんなさい、本当に何でもないです」
そう言って服の袖で涙を拭う私に、秋世さんがそれ以上何かを追求する事は無かった。
嗚咽を堪えながらぱたぱたと涙を流し、どれくらいそうしていただろう。
泣き疲れて初めて、段々と心が落ち着いていくのが分かった。
今までずっとふわふわとしていた感覚と意識ががきちんと正常に戻っていく心地。嫌な夢から覚めて、現実に引き戻されるような変な感覚だ。
「・・・・お腹すいた」