秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
ぽつりと漏れた独り言は完全に無意識だった。口にしてしばらくしてからハッとする。
「ごめんなさい私、食欲がないからってここまで連れてきてもらったのに」
「どうして謝るんですか。良かったです、何が食べたいですか?」
「甘いものが食べたいです。・・・ドーナツとか」
何が食べたいかと聞かれ、考え込む間もなくそう答えていた。
空腹という人間らしい感覚も、無償に何か甘いものを口にしたくなる感覚も久しぶりだ。
「ドーナツですか。ここのショッピングモール内のドーナツショップか、それとも何処かの専門店かカフェに移動しますか?」
「えっと、ここの中に入ってるお店が良いです」
「分かりました」
そう言って秋世さんが立ち上がり、私に手を差し伸べる。その手を掴んで立ち上がり、震えの治まった自分の身体を再確認して少しホっとした。
ドーナツショップへは階をまたがずともすぐ側の所にあり、もう日が落ちた時間帯だからか店内は空いていた。ショーケースからいくつかドーナツを選んでトレーに乗せて会計を受ける。
財布を出して代金を払おうとすると、もたつく私より先に秋世さんがカードで会計を済ませてくれた。
「すみません、いくらでしたか?」
「あぁ、大丈夫ですよ」
席についてからお金を返そうとすると、財布を開けようとするのをそう言って制された。
「でも、私の部屋の家賃も今着てる服だって秋世さんの負担なんですね?食事代まで出して貰う訳にはいかないです」
「気にしないで良いですよ。今度絵で還元して下さい」