秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
もう描けない
翌日。
秋世さんに食事に連れていって貰った事で冷静になれた私は、アルバイト先である薬局の店長に連絡を取ろうと携帯を手にとった。
「・・・どうしよう、もっと早く連絡すべきだったな」
そう呟いて携帯の発信ボタンを押す。
3コールして電話がつながり応えた「飛翠ちゃん?」という店長の優しい声は、もう既に酷く懐かしいものに感じた。
今までずっとお世話になって、良くしてくれて。そんな店長とこんな形で会えなくなるなんて思ってもみなかった。
私が福岡を発ってからの出来事やその理由を話し何度も何度も謝る途中にも優しく穏やかに相づちを返してくれる店長に会いたくなって、福岡に帰りたくなる。
──・・・その仕事、断りたいって言ったらどうなりますか。
──四宮さんのアルバイト先の薬局、経営出来なくなるように手を出しますよ。
でも、それはもう出来ない。
「急に勝手な形でこんな、本当にごめんなさい」
「謝らなくていいのよ。お店の事は気にしないで、イラストレーターのお仕事頑張ってね。でも辛くなったり寂しくなったりした時はいつでも電話かけてきて。何なら私が東京へ行くわ」
「・・・ありがとうございます」
そう応える声が思わず震えそうになる。誰にも甘えず1人きりで頑張っていくと心に決めたばかりだったのに、どうしてこうも私の決心は脆いのだろう。