秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
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高層ビルが建ち並ぶオフィス街。
雪谷食品の本社は、マンション近くの駅から二駅進んだ所にあった。
その大きさやビルの高さに圧倒されながら正面玄関をくぐる。白を基調とした吹き抜けのエントランスホールに思わずちらちらと上を見上げてしまいながら受付に向かうも、途中でその足を止めた。
秋世さんとの面会をお願いしたいのだが、現在の雪谷食品における秋世さんの役職は何なのだろう。そもそも何の面会予約も取らずにこうして会社を訪れてしまった。そんな私が秋世さんに会わせて貰う事は難しい気がする。
勢いで会社を訪れた事を後悔し、とりあえず出直そうときびすを返そうとした時だった。
「あら、受付されないんですか?」
オフィスファッションに身を包んだ綺麗な女性に声を掛けられ、思わず驚いて漏らしそうになった声を呑み込む。
(・・・これ、私に話しかけてくれてるんだよね?)
少しだけ戸惑いながらも口を開いた。
「雪谷秋世さんという人に面会をお願いしたくて来たんですけど、アポも何も取らずに来てしまったんです」
「あぁ、なるほど。ちなみにご用件は?」
用件を聞かれて咄嗟に言葉が出てこなかった。何と答えるのがよいのだろうと焦り思わず右手をきゅっと握りしめる。
するとその綺麗な女性は私の右手に目をやり、何かを納得したように頷いた。
「もしかして、四宮飛翠さん?」
突然名前を言い当てられて目を見張る。戸惑いながらもコクンと頷くと、やっぱりと言って微笑まれた。
「着いてきて、社長代理の所まで案内するから」
「え、良いんですか?」
「うん。四宮さんの事は聞いてるし、会社にとっても大切な人だもの」
そんな言葉に思わず黙り込む。会社にとって大切な仕事を引き受けた私は、これからそれを出来ないといって放り投げに行くのだ。
曖昧な笑顔で曖昧な返事を返しながらエントランスを抜けてエレベーターに乗る。