秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
エレベーターに乗り2人きりになった所で、少し気になっていた事を尋ねた。

「秋世さんって、雪谷食品の社長代理なんですか？」
「元々社長代理を務めていたお兄さんの仕事をスライドで全部引き受けているから、社内の人は皆そう呼んでるの。けれど、もうすぐで正式に取締役社長に就任されるわ」
「･･･そうなんですね」

なんとなくは分かっていたが、こうして言葉で聞くと改めて凄い人なのだなと理解する。

高人さんも秋世さんも、普通なら会社勤めもした事がないような自分とは交わる事のないような世界の人達だったのだ。

「ちなみに私は、前任の社長代理の秘書をしていたの。由良美琴って言います」

そんな言葉に思わず身体が固まった。

前任の社長代理の秘書という事は、高人さんの秘書をしていたという事だ。

（･･･私、聞きたい事がある）

事故にあう前の高人さんの状態や様子を知りたい。過労による居眠りが原因の事故だと聞いているけれど、本当にそうなのだろうかと疑う心が消えない。注意深くてしっかりしている高人さんらしくないからだ。

でも、由良さんは私の事をどこまで聞いているのだろう。”四宮さんの事は聞いている”と言っていたけれど、私が高人さんの元婚約者であった事まで知っているような雰囲気ではない。

どうしようと躊躇っている内にエレベーターは目的階に到着した。
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