秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
秋世さんがいるらしい部屋はエレベーターを降りてから暫くの所にあった。
「あの、本当にありがとうございました。わざわざここまで案内して頂いて」
「良いのよ良いのよ」
由良さんがそう言って微笑みコンコンと部屋のドアをノックする。やがて秋世さんの声が応え、由良さんと共に部屋に入った。
「由良です。四宮さんが面会をお願いしたいとの事ですが、よろしいですか?」
「あぁ」
秋世さんがそう言って頷くと由良さんは部屋を後にし、部屋には私と秋世さんの2人になった。
「わざわざ会社にまで来てくれたんですね。どうしたんですか?」
「私には、もう前みたいな絵が、高人さんが褒めてくれたような絵が描けないんです。だから、どうか私から手を引いて下さいって・・・そうお願いしにきたんです」
「・・・へぇ」
そんな私の言葉に秋世さんは驚いた様子もない。
顔色を変えないままにそのままじっと見つめられ、耐えられずに目を反らしたのは私の方だった。
「使って頂いたお金はこれから働いて貯めて必ず返しますから、だからお願いします。一度引き受けた仕事なのに非常識だって事は分かってます、本当にごめんなさい。けどもう、どうしても出来ないんです」
「どうしてですか?」