秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

二 週 間 前 に 兄 が 死 に ま し た 。


「……は?」

「それを貴方に伝えに来たんです。今から一緒に東京へ来て貰えますか?」

高人さんの弟が一体何を話しているのか、それを頭が処理して噛み砕いてくれない。

慌ててその言葉を何度も頭中で繰り返すが、まるで意味の持たない言葉が音声をもって羅列されている様だ。




こんな筈では無かった。

恋人である高人さんが福岡から東京へ行ってしまったのは1年前。

小さな会社を経営されていたという高人さんのお父様が亡くなり、会社の後継者が確定するまでの間、社長代理として会社の経営を行う為だった。

そんな高人さんと急に連絡が取れなくなり、音信不通の状態になったのは今日で丁度二週間前だ。

いくら小さな会社といえど、その会社の社長の椅子に座り会社を回す事はきっと私には想像出来ない程に大変な事なのだろう。そう思ったら、高人さんに連絡をせがむような事は出来なかった。

高人さんの負担になるような事はしたくない。

大丈夫。たとえ連絡が返ってこなくても、高人さんは私の事を想ってくれている。
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