秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。


「・・・仕事の為なら、本当に何でもするつもりなんですね」

「はい。誰にでも、何だってしますよ。兄の婚約者だった貴方も例外じゃない」

秋世さんのそう冷たく言い放たれ、背筋がゾクッと冷える心地がした。

本当にどうかしている。いくら容姿が似ているといってもこんな人と高人さんをどうしても重ねてしまう自分が許せない。

「そこまで執着されるほど、私には何もありません」
「気にしないで下さい、それを決めるのは俺です」

間髪入れずにそう返されて思わず口をつぐむ。

「それに言いましたよね?四宮さんが描かないならあの薬局に手を出すって」

「・・・・っ」

そんな秋世さんの言葉にギリっと唇を噛んだ。

だから、それをやめてって言いに来ているのに。絵が描けないからもう解放して欲しいって。それで、薬局に手を出す事もやめて欲しいって。なのに。

それなのにどうして届かないの。


「・・・・・・どうしたら解放して貰えるんですか」

「考えるだけ無駄ですよ」

そう言って秋世さんが一度部屋の机に戻ると、そこから手にしたノートとペンを私に差し出した。差し出されたそれを受け取ろうとしない私の両手に半ば強引に握らせた後、秋世さんは部屋の大きな扉にカチャリと鍵をかけた。
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