秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

(・・・え?)

鍵のかかる音にビクッと身体が震えるのが分かった。

「一度俺の前で描いてみて下さい」
「描けるまで、私をここから出さないつもりですか・・・?」

そう尋ねる声の語尾が情けなく揺れる。秋世さんが肯定するように目を伏せた時、自分の中で何かがプツンとちぎれたような心地がした。


──この人の側から早く離れたい。


そんな強い気持ちが、絵を描きたくない気持ちを押しつぶす。絵を描くのが苦しい理由を超えていく。

(それほど私は秋世さんの事が怖くて怖くて、すごく苦手だ)

震える手でノートのページをめくり、ソファの前のテーブルにそれを広げ急いでペンを走らせる。
モデルとなる食品が目の前になくても構わない。今まであれほどずっとにらめっこしてきたのだ、頭が覚えている。

「・・・・・・。」

東京のマンションであんなに苦戦していた筈なのに、それが嘘だったかのように自分の手がとまらない事に驚く。きっと、秋世さんと一緒にいる緊張で高人さんの事を考える余裕がないのだ。
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