秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

まるでスランプから抜け出した画家のような心地で絵を描き上げていく。

(・・・・楽しい)

内心で漏れたそんな言葉に戸惑いハッとした時、ノートの中には温かそうに湯気をたてているカップスープの絵が完成していた。

「ぁ・・・私・・・」

「描けなくなったって言ったのは嘘だったんですか?上手ですね、理想的ですよ」

そう褒められ、何と返してよいか分からず黙り込む。こんなに複雑な感情を覚えた事はない。

「・・・・私はただ、これ以上秋世さんの側に居たくなかっただけです」

そう言って立ち上がり、私は逃げるようにその部屋を後にした。





飛び出すように会社を出てビル街の大通りに出る。

人並みをかき分けながら駅に向かう途中、もう何度ため息をついたのかわからなかった。

もう絵を描きたくないと言いに秋世さんに会いにいった筈なのに、結局私は秋世さんの側で絵を描き上げた。不本意ではあるけれど、それで絵を描くのを楽しむ気持ちと、あの感覚をもう一度取り戻した事は否めない。

それでも、あんなに強引で横暴な秋世さんの事を好きにはなれない。

何故同じ家族の元で育った筈の兄弟の人格があれほどかけ離れているのだろうかと内心で首を傾げた時だった。
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