秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
どうかしている
──那月と電話で話してから数日後の朝。
私は那月からの着信で目を覚ました。眠い目をこすりながら携帯を耳に当てる。
『おはよう飛翠、今のうちに荷物まとめておいて』
「え・・・?」
『今東京に来てる。どこに迎えにいけば良い?』
「えっ・・」
那月の言葉に寝ぼけていた意識が一瞬ではっきりとする。東京に迎えに来るとは言っていたが、まさかこんなに突然、しかもこんな朝に急に知らせられるとは思ってもみなかった。
『いくら雪谷さんの弟と言ってもそんな非常識な事する奴の側に飛翠を置いておける訳ないだろ、帰るぞ』
「・・・・・。」
那月の言っている事は正しい。私もずっと秋世さんから逃れたくて帰りたかった。
その筈なのに、いざそれが叶うとなった今罪悪感にさいなまれているのはどうしてだろう。
──四宮さんの事は聞いてるし、会社にとっても大切な人だもの。
──四宮さんには、今度の記者発表会に出て貰います。兄が亡くなった事と一緒に、四宮さんの事も世間に発表するんです。
「ありがとう那月。でも、私、もう既にやらなきゃいけない仕事が決まってるみたいで・・・」
『変な事を言うのは止めてくれ。脅されて引き受けた仕事なんだろ?飛翠がやる遂げる義務なんてない』
「でも・・・」
『でもって何だよ。だいたいこの間からの飛翠の発言も行動、全部中途半端だぞ』
発言と行動が全部中途半端。
そんな那月の言葉が深く胸に刺さる。那月の言う通りだ。
秋世さんの仕事を引き受けたり、引き受けたのにやっぱり出来ないと断りに言ったり。その事を那月に言って、それでせっかく迎えに来てくれると言っている那月にこの態度だ。