秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
「・・・ごめん。那月は今どこにいるの?空港?」
『ああ、羽田にいるよ』
「わかった。今から荷物まとめて、そっちに向かうね」
意を決してそう言葉を返すと、携帯越しでほっとしたように那月が息をついたのが分かった。
『帰りのチケットはもうとってあるんだ。それじゃあなるべく急いで』
「うん」
そう言って電話を終え、急いで手荷物をまとめる。
荷物をまとめるといってもまとめる荷物はとても少なく、さほど時間は要さなかった。
秋世さんから貰ったものはそのままに、自分がここへ連れてこられた時に持ってきていた必要最低限の貴重品や衣服だけを鞄に詰める。
準備を終えてから、固定電話の着信履歴から秋世さんに電話を掛けた。
コールは繋がらず、暫くして電話は留守電へと切り替わった。
『飛翠です。・・・途中で投げ出す形になって申し訳ありません。私、福岡に帰ります』
生唾を呑み緊張気味に残したそんな音声は、自分でも自覚する程に細く震えていた。