秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
『少しの間、待っていてくれないか。そして結婚しよう』
だって、福岡を発つとき、高人さんはそう言ってくれた。だから待とう。我慢しよう。
高人さんが戻ってきたら、きっとこれからはずっと側で一緒に居られる。そんな将来の事を考えたら、酷く長く感じるこの会えない時間も連絡のとれない期間も、きっと”少しの間”なのだと思える気がした。
だから待った。けれど、待っても待っても本当に高人さんからの連絡がない。
その期間が積み重なる度、その寂しさはやがて不安と心配に姿を変えた。
いくらなんでもこんなに長い間メールの一本の返信すらないなんてさすがにおかしい。
…高人さんの身に何かあったのだろうか。
そう思うと急に不安になり、私は何度も高人さんの携帯に電話をかけた。
そう思うといてもたってもいられなくなった。ただ、私は高人さんの実家の住所も、高人さんが社長代理を務めている会社の名前すら知らない。
以前に会社の名前を何度か尋ねた事があったが、名の知れないような小さな会社だからといって教えて貰えなかったのだ。こんな事になるのが分かっていたなら、我が儘を言ってでも会社の名前を聞き出していたのに。