秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
それなのに、首が動かない。否定する言葉が出ない。
黙り込む私を見つめる那月の瞳が段々と温度を失い、まるで絶望するようにその目を伏せた時。
「探しましたよ四宮さん」
まるで深く聞き覚えのあるような声に背後から名前を呼ばれてビクッとする。
振り向かなくても分かる。──・・・秋世さんだ。
「無理してこんな事しても無駄だって分からなかったんですか?」
コツコツと近づく靴音がやがて側で止り、そんな言葉をかけながらやがて秋世さんは私の目の前に現れた。
こんな事しても無駄。
まるで冷たいナイフのような言葉に心臓をえぐられる。そんなに視線を合わせるように秋世さんがその腰をかがめる。
「座りこんで青ざめて、本当に可哀想ですね」
「・・・・。」
「ほら、立てますか?」
秋世さんの言葉にコクンと頷き、差し出された右手に自分の左手を重ねる。そのまま体重を任せるようにして立ち上がった。
さっきまで身体も、首さえも固まったように動かなかったのが嘘のようだ。
「まだ苦しいですか?もう大丈夫ですから、安心して下さい」
「・・・・。」
本当に、どうかしてる。
その言葉で、声で、さっきまであんなに自分を縛っていた恐怖感や焦燥感、痛みが段々と溶けていく。
どうしようもないくらいに安心してしまう。───何故。