秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

「──ごめん那月、私やっぱり・・・帰れない」

そう私が告げた時の那月の顔を、私は一生忘れない。

両親を亡くしてすぐの空っぽだった私に、生きる気力をくれたのは那月だった。

まるで抜け殻のような私の手を引いて外に連れ出してくれたのは那月。
まるで本当の姉のように慕ってくれたのは那月。
初めて私の絵を褒めてくれたのは那月。

大人になった今でも私の事を子ども扱いして過保護に心配するのも、那月だけ。

自分にとってかけがえのない大切な存在である那月に私は、何て顔をさせているんだろう。


「・・・・・もういい、謝るな」
「でも・・・」
「いいから、もう。」


そう言って那月は振り返る事なくその場を後にした。

段々と小さくなり人並みに消えていくその後ろ姿を見ながら、私は高人さんだけでなく那月まで失ってしまったのだと悟った。
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