秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
初恋【藤代那月side】
──空っぽの人形。
俺の両親に手を引かれてやってきた飛翠を形容する言葉はそれだった。
まるで正気を感じなかったし、綺麗に整った瞳は暗く冷たく陰っていた。
両親をいっぺんに亡くした幼い子どもが暗く悲しみに浸るのはごく当然の事だが、今にして思えばあの頃の飛翠の悲しみ方は6つという年齢にはあまりに似つかない程に大人びたものだったように思う。
激しく泣きじゃくる訳でもなければかんしゃくを起こす訳でもない。ただただ悲しそうな瞳で何かを呑み込むようにずっと唇を噛んでいた。
「飛翠ちゃん、これから新しい家族としてよろしくね」
そう言う母さんにぎこちない微笑みを返していた飛翠の姿を何故かよく覚えている。
幼いながらに俺も話は聞いていて、母親の姉夫婦であり一つ年上の従兄弟の女の子の両親が亡くなった事はわかっていた。そして飛翠をうちで引き取る事になった事も。
「よ、よろしく。えっと・・・」
(新しい家族になるのに、飛翠ちゃんって何か違うよね)
「よろしく、ひすいおねえちゃん」