秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
勢いで口にして最初はもの凄く恥ずかしく感じていたお姉ちゃんという呼び方は、飛翠がものすごく喜んでくれた。
逆にお姉ちゃんと呼ばないと飛翠は訂正させはしないもののどこか悲しそうな顔をするから、いつしかお姉ちゃん呼びは板につき口になじむようになっていった。
昔から飛翠の笑顔が好きだった。飛翠の喜ぶ顔が好きだった。
当時の俺は飛翠が落ち込んだように悲しい顔をしたり1人部屋の片隅で静かに泣いているのがどうしても嫌だった。そんな姿を見るのが辛かった。
(俺が飛翠お姉ちゃんを守る。飛翠お姉ちゃんを泣かせたくない)
そんな一心で、俺は飛翠に悲しむ間を与えないようにひっつき、飛翠が嫌がった時にも強引にその腕を引いて外へ遊びに連れ出した。
一緒にいる時間は飛翠は悲しい顔をしないから、その隙を与えない程にずっと側にいればいい。それが幼い俺が編み出した安直な答えで、そんな俺に飛翠はついてきてくれた。
幼少期はずっとそうして遊んで過ごしてきた。
幼稚園を卒園し、飛翠の背中を追うように小学校へ上がった。
”飛翠お姉ちゃん”の呼び方が”飛翠姉ちゃん”へと変化したのはその頃だったか。そして飛翠へ抱く気持ちに疑問を感じ始めたのも。