秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。


──「なぁ、那月って今好きな女子とかいる?」

小学校からの下校中。友人との何てことのない会話が引き金だった。

──「何言ってんだよ、そんなん興味ねぇよ」

──「えー、でも、良いなと思う女子ならいるだろ?ほらえっと例えば・・・」

そうやって名前を羅列された女子に特別何か感情を抱いた事はなかった。

──「・・・別に。」

──「マジかよ。じゃあ、可愛いと思う女子は?」

そう尋ねられて真っ先に浮かんだのは学校のクラスメートでも友人でもない、自分が姉ちゃんと呼んで慕っている飛翠だった。

その友人にそんな自分の気持ちを正直に返す事はしなかった。他の身近な女子ではなく、姉を可愛いと思っているなんて変だと幼いながらに違和感を覚えた。

その違和感は学年を重ねる度に徐々に大きくなっていった。

段々と表情が大人びて、それと反するように華奢に小さくなっていく飛翠の身体。──違う。飛翠が小さくなっていっているのではなく、自分が大きくなっているのだ。

小さな頃は背も体重もさほどかわらなかったのに、お互いが中学に上がる事にはその差は顕著なものになっていた。

「飛翠姉ちゃん、小っさくなったなぁ」

世間一般的に見ても少し小さめな身長を気にしていた飛翠は、そう言ってからかうといつも顔を赤くして少し頬を膨らませて怒った。

「那月が大きくなってるだけ!私だって、これから伸びるから」
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