秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
本気でむきになる飛翠は可愛い。

そしてそんな飛翠に俺が抱いているのは、そんな単純な感情だけじゃない。
中学生の頃の俺は、自分の気持ちを誤魔化す事なくしっかりとそう自覚をしていた。

だからといって自分の想いを飛翠に告げようと思った事は一度もなかった。

飛翠が俺の事を本当の弟のように思ってくれている事はわかっていたし、何より飛翠が再び手に入れた2度目の新しい家族を、家庭を、俺の一時の感情で壊すなんて事をしたくなかった。

それはそれで苦しい日々ではあったのだが、別の意味での苦しさを思いしるようになったのは高校生になった頃だった。

触れられない好きな子と無期限の同居生活。

今までと何ら変わりの無い筈なのに、身体と心に変化を迎えた男子高校生にとってそれは甘く酷い地獄だった。

壁の向こうに飛翠がいるのだと思うと眠れなかった夜はいくつもあったし、その苦労をなんとなく周りの友人達に察されているのもいたたまれなかった。

 藤代那月。 四宮飛翠。

養子縁組をとっていない為に苗字が別々な俺達は、いちいち説明をせずともその家庭環境を周りに理解される。

「那月も大変だよなぁ。あんな可愛い先輩と一つ屋根の下で手出せないとかさぁ、俺達にとっちゃ毒だよな。」

そんな事を言われる度に、姉にしか見えない等と嘘を言って誤魔化してきた。

友人達の言葉はいつも図星のようで自分にとっては少し違う。もっとずっと、想像されているよりもキツい。


だって好きなんだ。ガキの頃からずっと。

思えば記憶もあやふやなくらい小さな時から、泣かせたくないと必死に飛翠の腕を引いていたあの時からもうすでにそうだったのかも知れない。

飛翠の事が好きだ。
飛翠だけが俺の全てだと思うくらいに酷く。

< 82 / 98 >

この作品をシェア

pagetop