秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

それでも、どれだけ飛翠への想いの丈があっても、それが俺達の関係を変化させる事は決してない。

だって飛翠は望まない。だから俺も動くつもりはない。

飛翠の幸せを誰より望む俺が、飛翠の幸せを壊すような真似が出来る筈がなかった。

──・・・ただ。


「飛翠」

高校からの帰り道。初めて飛翠の事を呼び捨てにしてその名前を呼んだ。

飛翠は一瞬驚いたようにその目を見開いた。少しだけ寂しそうな表情を浮かべた飛翠だったが、その時から今まで一度も呼び方を戻して欲しいと言われた事はない。

飛翠の事を飛翠姉ちゃんと呼ばなくなったのは、多分、抵抗したかったからなのだと思う。

好きな人を姉ちゃんと呼び、家族として一緒に育ってきた自分の運命を決して恨んでいる訳ではない。

そうでなければ、そもそも飛翠の事を好きになる事もなかったかもしれない。

・・・ただ、生まれ変わってももう一度飛翠とこの生き方をしたいかと問われれば、きっと俺は首を横に振る。この運命に抗いたくないと言えば嘘になる。


そんな誰にも告げられない想いが、口をついて出てきたのだろう。
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