秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
プレッシャー
「わぁ、四宮さん、すごく綺麗よ」
そう言って由良さんが鏡の中に映った私を褒めてくれる。
真っ赤だけれど品があって不思議と派手でないシャツに、真っ黒なパンツ。いつもは結いも巻きもせずにただ下ろしていただけだった髪は顔周りでゆるく巻かれ、その表情は慣れないほどに華やかなメイクで明るく見えた。
全て、美容部員として働いていた経験があるという由良さんが施してくれたものだ。
前に雪谷食品で会った時も思ったのだが、由良さんは同性の私でも惹かれるくらいにとても綺麗な人だ。元美容部員というのもうなずける。
こんな人が秘書として今までずっと高人さんの側についていたのだと思うと、たとえ今さらだとしても胸がざわついてしまうのが少しおかしい。
「フォーマルなのも良いけど、イラストレーターって事で少しアーティスティックな方向に仕上げてみました。こんな感じでどうですか?」
そう言って由良さんが声をかけた先は私ではなく、知らぬ間に部屋の後ろに立っていた秋世さんだった。
「期待以上です。綺麗ですよ、四宮さん」
そう言ってお手本のような微笑を返され、咄嗟に何と返して良いか分からずに黙り込む。