秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。


「この度雪谷食品の取締役社長に就任致しました、雪谷秋世です。しっかりと雪谷食品の伝統を受け継ぎながらも、これからは商品の海外展開、グローバルブランドへの確立に力を入れていきたいと考えており・・・」

──記者会見本番。

そうしてスタンドマイクでそう話す秋世さんの声をどこか遠くで聞いているようだった。

眩しいフラッシュ。浴びた事のない類いの光。大勢の人。人。人。

(ど、どうしよう、視線ってどこに定めておけば良いの・・・?)

緊張で心臓が飛び出しそうになり、由良さんのアドバイス通り周りの人を野菜だと思おうとしても逆に思考回路がおかしなものになっていく。

「次に、新たに雪谷食品が取り組む”全商品パッケージイラスト化”の計画についてお話致します。このプロジェクトの狙いは、他社の商品との差別化をはかる事、そして写真とは違いイラストをパッケージに起用する事により通常とは違った角度から消費者の食指をそそる事の二つです」

秋世さんの言葉に耳を傾けながらも、自分の心を落ち着かせる事に必死になる。


上がってはいるが、幸い話すべき事は頭から飛んではいない。

──「会見で聞かれそうな事をリストアップして適当な答えを用意しておきました。参考までに目を通しておいて下さい。」

というのも3日前、そう言って秋世さんから受け取ったものを丸暗記しているからだった。

(大丈夫、落ち着いて落ち着いて)

「それでは、このプロジェクトにおける商品パッケージイラストを担当するイラストレーターをご紹介します」
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