秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
司会の方の前置きがあり、私は生唾を飲みながらもいよいよマイクの前に立った。
「ご紹介に預かりました、今回のプロジェクトにイラストレーターとして参加させて頂きます、四宮飛翠と申します。イラストレーターとしての経験も実力もまだまだ未熟ではありますが、雪谷食品の商品の魅力を伝えられるようなイラストを生み出せるように精一杯頑張ります」
緊張で倒れそうになりながらも何とか自己紹介を終える。
秋世さんの方からも簡単な紹介を受けた後、会見は質疑応答の時間へとうつった。
「まずはフランスを中心に商品の海外展開を積極的に行っていきたいとのお話でしたが、フランスという国を主軸に選ばれた理由は何ですか?」
「日本食が主である我が社の商品を受け入れて貰いやすい国だと考えているからです。かつてフランスのパリで日本食ブームが起ってから、フランスでは年々その人気や注目が高まっています。我々はその人気に乗じると共に新たなマーケットを獲得していきたいと考えております」
(海外展開・・・フランス・・・)
記者の方と秋世さんのやりとりを聞きながら、自分は雪谷食品のビジネスについて何も理解していなかった事に気がつく。
ただでさえ大きな企業である雪谷食品は、これから力を入れていくというその海外展開に成功したらもっと大きな企業になる。
私が任されているこの仕事は自分の想定していたものよりもずっと大きくて、そしてこの席は──本来なら私みたいな無名で実力不足な人間が座っていていいものじゃない。