秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
自分が発した筈のそんな言葉は、自分のものとは思えない程に尖った声で自分の耳を刺す。
──嘘。嘘。嘘。嘘。
だって高人さんは約束してくれた。戻ってくるって。・・・そして、結婚しようって。高人さんがその約束を破って、私を置いていく筈がない。
「・・・嘘、つかないでください」
「嘘だと思うなら東京へ来て、直接貴方の目で確かめて下さい」
そう言って再び差し伸べられた手から目を反らすと、その手は背へと伸びそのまま私の身体を抱きかかえた。
しゃがみ込んでいた筈の身体は宙に浮き、とっさに声など出ない程に状況がつかめなかった。
「・・・な、何するんですか、降ろして下さいっ」
「自分の足で立って、一緒に東京へ行ってくれるというのなら降ろしますよ」
「立ちます!東京へ行きますから・・・!」
そう抗議して手足をジタバタとすると、秋世さんは小さくため息をついて私の身体をそっとおとした。
やっと足が床につき、ふっと安心すると共に段々と頭が冴えていく。
「彼女をかりていきますね」
秋世さんはそう言って店長に小さく会釈をすると、目をふせて俯く私の腕を引いて店の外に出た。店の外には一台のタクシーが待機しており、腕をひかれるままにそのタクシーに乗り込む。