秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

思いがけない指名に思わずビクッとする。司会の女性も戸惑うように秋世さんに視線を流すと、秋世さんは「どうぞ」と言って頷いた。

「ありがとうございます。では質問させて頂きます。

四宮さんは先程ご自分を経験も実力も未熟なイラストレーターだと仰っていましたが、そうであるのに雪谷食品のイラストレーターとして抜擢された理由は、やはり亡き雪谷副社長の力だとお考えですか?もしくはその話題性を買われたとも?」

「・・・・っ」

思いもかけない質問に、思わず落としてしまいそうになったマイクを慌てて両手で握り直す。

──完全な図星だ。私が秋世さんに選ばれた理由なんて、それ以外の何でもない。

でもここで馬鹿正直に首を縦に振る訳にはいかない事くらい私でも分かってる。

(どうしようどうしよう、何て答えればいいの)

頭が真っ白になり、マイクをもつ両手が情けなく震えた時だった。


「私が四宮さんを抜擢したのは、四宮さんの絵がプロジェクトにおける私の理想だったからです」


会場にそんな秋世さんの言葉が響いた。
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