秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。

そんな秋世さんの言葉に、驚いて思わず俯いていた顔を上げる。

「言った筈です。会社の為に、貴方の才能と話題性が欲しいと。

四宮さんの絵を見た時に、純粋にその絵を起用したいと考えた兄の想いを理解しました。話題性の為だけに下手なイラストレーターを起用する程、俺が馬鹿な経営者に見えますか?」

「そんな・・・まさか」

「四宮さんの描く絵は、確かに大衆の目を引くような奇抜さや目新しさがあるわけじゃありません。料理に例えるなら家庭料理のような、良くも悪くも凡庸で、けれど温かい」

家庭料理。

・・・確かに私は、高人さんに褒めて貰える事が何より嬉しくて絵を描いていた。

高人さんや秋世さんが認めてくれた私の絵は、多くの人の為でなく、高人さんただ1人の為に描いていたものだった。

「雪谷食品のコンセプトは、”インスタントに再現出来る家庭の味”です。毎日食べたくなるような、飽きがこないような食品を目指して、商品の味付けは他社に比べて素朴で薄い。

そんな雪谷の商品に、四宮さんの絵は合っていると思いました。」

「・・・・・。」

秋世さんの言葉を、信じられない気持ちで聞いていた。

ずっと小さな話題性の為だけに私の絵にこだわる秋世さんを不思議に思っていて、そんな事を思ってくれていたなんて知らなかった。

──私の才能と話題性。

私は秋世さんに話題性と、才能・・・いや、才能というより、”雪谷食品との相性の良さ”を買って貰ったのだ。

「・・・あ、秋世さんが嘘を言っていない事はわかりました。でもわざと大げさな言い方をして話を盛ったのはわざとですよね?」

「まぁ、そうですね。これだけ発破をかければもう四宮さんに逃げられる事もないかなと思ったので。俺の言葉がプレッシャーになったのなら本望です」
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