秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。
✥
「ん・・・あれ・・・?」
会見のあった会場からの帰り道。
マンションまでの道を走る秋世さんの車の中で、突然自分の右手に痺れを覚えて目を見張った。
「四宮さん、どうかしました?」
「あ、いえ・・・何でもないです」
隣で車を運転する秋世さんにどうかしたかと尋ねられ、そう咄嗟に嘘をついた。
(わざわざ言う程の大した痺れでもないし、大丈夫だよね)
そう思い、もう痺れの引いた右手を軽く握ってみる。
「・・・・いっ」
──痛い。
反射で飛び出そうになった言葉を慌てて呑み込んだ。
その瞬間秋世さんが訝しげに視線を動かしたのがわかり、慌てて誤魔化す。
「い、良い天気・・・でもないですよね、今日」
「そうですね。夕方からは雨が降るそうですよ」
「それは知らなかったです、ははは・・・」
我ながら下手な話の誤魔化し方に臍を噛んだが、何とかやり過ごせたかと息をついた時だった。
「四宮さん。もう一度聞きますが、どうかしましたか?」
明らかに呆れたような様子でそう尋ねられ、思わずビクッとする。