秘する君は、まことしやかに見紛いの恋を拒む。





「ん・・・あれ・・・?」

会見のあった会場からの帰り道。

マンションまでの道を走る秋世さんの車の中で、突然自分の右手に痺れを覚えて目を見張った。

「四宮さん、どうかしました?」

「あ、いえ・・・何でもないです」

隣で車を運転する秋世さんにどうかしたかと尋ねられ、そう咄嗟に嘘をついた。

(わざわざ言う程の大した痺れでもないし、大丈夫だよね)

そう思い、もう痺れの引いた右手を軽く握ってみる。

「・・・・いっ」

──痛い。

反射で飛び出そうになった言葉を慌てて呑み込んだ。

その瞬間秋世さんが訝しげに視線を動かしたのがわかり、慌てて誤魔化す。

「い、良い天気・・・でもないですよね、今日」
「そうですね。夕方からは雨が降るそうですよ」
「それは知らなかったです、ははは・・・」

我ながら下手な話の誤魔化し方に臍を噛んだが、何とかやり過ごせたかと息をついた時だった。

「四宮さん。もう一度聞きますが、どうかしましたか?」

明らかに呆れたような様子でそう尋ねられ、思わずビクッとする。
< 95 / 98 >

この作品をシェア

pagetop