マスク男の秘密
 彼は携帯電話のライトを照らしながら出入口のドアのもとへ向かった。彼はその引き戸を開けようとするが、経年の劣化で立て付けが悪くなっていたせいかびくともしない。

「だめだ。先生が来るのを待とう」

 彼は床に落ちた本をどけて、本棚を背もたれにして座った。私も彼の隣に座った。かすかに彼の体温を感じる。薄暗いので彼の表情はいまいち分からない。いつもマスクなのでどちらにしろ分からないのだけど。


しばしの沈黙。


先に口を開いたのは彼の方だった。

「さっき、見た?」

「え?」

「見たよね、僕の顔」

「…うん」

 見てしまった。ゆでだこのように真っ赤に紅潮した彼の顔を。

「……僕、極度の赤面症なんだ」

「なんだ、そんなことだったんだ」

 思わず笑ってしまった。

「吸血鬼でも口裂け男でもなくて悪かったね。でも僕にとっては大きな問題なんだ」

「橘くんってクールなイメージだったから、なんか、すごいギャップ」

マスクの片耳の紐がちぎれてしまっているために、マスクを右手でおさえている。きっとマスクの下では頬を真っ赤に染めているに違いない。

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