マイナス余命1日 ※修正版
その図書館には、お気に入りの場所がある。
朝日がよく当たり心地良い気分に誘ってくれる、外国文学コーナーの棚の脇に置かれたソファだ。
今日も当たり前のようにそこに行った。
それなのに、先客がいたのだ。

「あれ?こんな朝早くに人が来るなんて思わなかったな」

(こちらのセリフですけど!?)

「君も、この学校の生徒なんだ?」
「まあ一応……」

(見た目はそんな風に見えないかもしれませんが)

「ふーん」

そう言って、奴は読んでいた本をソファに無造作に投げた。
私の目はそれが何か、即座にキャッチする。
本好きのなせる技だ。

(やめてー!)

その本は表紙から察するに、かの有名なイギリス文学の初版本。
しかも全く傷が無く、色の変化以外の劣化は見られない。
まさに、保管者の血と涙の結晶とも言える代物だった。
そんな貴重な本を、こんな日光がガンガン当たる、紙の変質の原因になり得る環境に置き去りにするなんて……。

「その本あげるよ」
「は?」

安物のリンスインシャンプーしか使えない為、スタイリングがうまくいかない程寝癖たっぷりの私の前で、厭味ったらしくサラサラの髪をかき上げながら

「もう飽きたし」

と言いやがった。
私が時給880円のアルバイトを、年齢を偽って今すぐ始めたとしても、80歳まで働いても手に入れる事が難しいこの本にだ。

(あ、ありえない……)

私が、金魚のように口をパクパクと動かしていると、目の前の人は、頭から足先まで目線を動かした。
まるで、私を物色するかのように。

「この学校は色々レベルが高いって聞いたけど……」

(……んん?)

「こんな立派なキューピー初めて見た」
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